年頭所感
地域医療再生へ一歩ずつ

鹿児島県医師会長 池田 琢哉 

            今年は巳年。年頭、まず自ら意気を新たにし、地域医療の再生に向け、医師会活動に邁進したい。時には自然の恵みや教えに感謝しつつ。
「よく見ればなずな花咲く垣根かな」(芭蕉)

地元で「地域医療計画」を
 我々医師会は、ことしも地域医療の再生を大きなテーマに掲げた。一歩ずつでも前進を図りたい。日医の横倉義武会長も「地域医療の再興」を喫緊の課題だと提起している。
 横倉会長は「地域医療を提供するなかでは、切れ目のない医療・介護の視点が大事だ」と昨年秋の臨時代議員会で指摘し、「国は施設から地域へ、医療から介護へという将来のイメージを描いている。そのことを念頭に、医療は介護から福祉まで全体を見極めねばならない」と述べて、これからの地域医療の在り方に言及された。
 会長はまた「医療・介護の視点で地域医療計画を提案できるのは、地域の医師会だけだ」と強調された。まさにその通りだ。ことし県が策定する今後5年間の「地域医療計画に対しては、そのまま受け入れるのではなく、地元の医師会、行政、住民が連携して自前の計画をつくるべきだ。県医も救急や周産期など地域医療が抱える課題と取り組み、方向性を提案していきたい。

現地懇談会も15箇所で
 地域医療の現状を知ろうと一昨年から始めた地元医師会との現地懇談会も、昨年10月の「鹿児島市」で15回に達し、残すところは3箇所となった。
 夜開かれる懇談会には行政、住民の方にも加わってもらい、率直な意見を聞くことができた。どこも医師不足は深刻で、これに診療科の廃止、医師の高齢化なども加わり、「医療崩壊」の現実を再認識することができた。
 住民の不安を考えると、早くなんとかしなければならない。「崩壊」を食い止め、「再生」の鍵を握るのが、県内に12ある医師会病院だ。地域の医師会員の参加により設立され、これまで地域の医療を支えてきた。しかし、今大きな課題として、医師不足などの悩みを抱えている。
 医師会病院には、国立、県立の基幹病院とともに、その地域の中核として、また地域完結型システム構築の中心施設としての役割を目指してほしい。
 「公的」病院への志向は一つの選択だろう。器材の共同購入ができるかもしれない。また将来、人事交流や事務の簡素化など一部共同運営や一部統合も視野に入れておきたい。

産科、小児科が崩壊寸前
 地域の医療が崩壊寸前にあると言われる。これまで実施した地域懇談会の中から二つの現実を紹介する。
 一つは産科の問題だ。鹿屋・肝属東部医師会との懇談会で、東串良町の産婦人科医が「もう10年したらこの地区から産科がなくなるのではないか」と発言した。そしてこう付け加えた。「これから先のことを考えると、公的病院に産科センターをつくる必要がある」と。私の認識も同じだ。
 南薩摩では、小児科医が不足している。県立薩南病院の小児科が閉鎖状態にあり、夜間の患者受け入れ先もなくなっている。加えて救急への対応もむつかしく、鹿児島医療圏への患者搬送が多くなっているのが現実だ。
 産科、小児科の医師不足は全県的であり、今のままでは地域住民の不安が解消されない状況が続く。打開のためには何をすればいいのか。特効薬があるわけではない。その方策を探るための「シンポジウム」をなんとしても開きたい。

総合医の復活が浮上
 地域の深刻な医師不足のなか、かつての「かかりつけ医」を「総合医」という名称で復活させる計画が浮上している。厚生労働省が新たな専門医制度を検討するなかで、検討課題になっているのだ。
 どんな病状でも診てくれる医師、つまりは診療の「窓口」になってくれる医師の存在が地域住民に不安を与え、診療科偏在の解消にもつながるのではないかと考える。
 大学では主として専門領域を担う医師を育て、さらに総合診療医の育成に取り組むシステムを確立していただきたい。総合医については、日医の生涯教育制度を活用しながら、カリキュラムを作成すればいい。
 総合診療医の養成は大学を中心に、総合医は鹿児島県医師会独自のシステムを構築して、総合医・かかりつけ医認定証を発行できればと思っている。こうすることで、開業医も勤務医も「資格」を取得することができる。これも地域医療再生策の一つではないか。
 将来的には、この総合診療医と総合医を統合させてもよいと思っている。

在宅診療への対応が急務
 次は在宅医療への対応である。昨春の診療報酬・介護報酬の同時改定では、「施設から在宅へ」の政策誘導が図られた。加速する高齢化社会に対応するためには、在宅での医療と介護の連携、看護の充実が不可欠だからだ。
 これから協議が始まる税と社会保障の一体改革の中では「医療から介護へ」「施設から地域へ」という方向が示された。なかでも訪問診療や訪問看護などの底上げが図られ、医療と介護の連携も強化されている。
 今後、我々に求められるのは地域における24時間対応の在宅医療体制である。それには、診療所は在宅診療支援診療所に、200床未満の中小病院には在宅療養支援病院になっていただき、複数の診療所で、また訪問看護ステーション等の多職種とも連携し、地域ネットワークをつくる。それがこれからの大きな課題である。
 在宅診療に関して、開業医はまだまだ勉強不足だ。様々な計画が今後示されるだろうし、的確に対応するためには、そのノウハウを学ぶべきだ。在宅支援システムの構築を急がねばならない。

むすび
 巳の年は、世界的にも不安定要素のある年と言われている。どんなことに出くわしても「国民の生命と健康を守る」という大本(たいほん)のもと、謙虚、忍耐、柔軟性をもって、医師会会員一致団結して、我々の目指す医道を歩み続けて行きたい。