年頭所感
医師会の役割・地域創生
心を一つに、事業を推進

鹿児島県医師会長 池田 琢哉 

            新しい年を迎えた。皆様やご家族にとって、良き年であることを祈りたい。
 ご承知のように、2016年の干支は、丙・申である。丙は、陰陽五行説の木・火・土・金・水の火性の陽で「炳(あきらか)」という字が当てられ、「光り輝いているさま」を表しているという。そして、丙の上の「一」は天地の気が横いっぱいに張り出した陽気を示し、門構えの中に人が入っている様を表している。陽気は成長して盛りを示すばかりでなく、囲いの中の人の繁栄は一定の枠の中で発展を遂げることができる。
 つまり、中庸であれ、バランスの取れた生き方をしなさい、そうすれば明るい未来が開けるということだと思う。この一年、身を引き締め、心して、医師会業務に当たって行きたい。
 今年の大きな業務としては、@地域医療構想の策定、A地域包括ケアのネットワーク作り、B在宅医療とかかりつけ医の推進、C医師会病院と医療機関の連携強化、D災害救急医療体制の強化、を掲げたいと考えている。


地域医療構想の達成目標を2030年に
  地域医療構想の目的は、地域の実情にあった医療提供体制を、関係者の合意のもとに策定することにある。第一回目の県の検討委員会と地域振興局ごとの懇話会において、地域の医療提供体制の現状説明がなされた。今後これを受けて地域ごとの課題の抽出、具体的な機能分化・連携のあり方についての協議が始まる。
 高齢化が10年先行した本県には、高齢単身世帯全国一位、高齢夫婦世帯全国3位の特性があり、その実態に配慮するならば、慢性期病床(療養病床)の再編(推計)においては、特例に従い、目標達成年次を2025年から2030年へと変更すべきであり、県行政に強く主張していく。
 一方、本会では昨年11月に医療従事者数・充足状況等の調査を行った。病院、有床診療所の職種別、男女別の数、年齢構成を把握し、各地域でどのような戦略で医療従事者を維持・確保するかを検討するための調査だ。鹿児島市外では各職種の高齢化が進み、若い世代の確保が困難になっている現状が鮮明になった。郡市医師会のお知恵もいただきながら、早急に対策を検討したい。
 構想の策定にあたり、会員の皆様は、病床削減を最も懸念されていると思う。二次医療圏ごとの地域医療構想懇話会(調整会議)においては、病床機能報告制度の年次ごとの報告結果等をもとに、現在の医療提供体制と将来の必要量を比較した上で、どの機能の病床が不足しているか等を協議し、医療機関による自主的な機能分化・連携を推進することが必要である。そのためには、十分な最新情報と十分な時間が必要であり、拙速に再編を進めることは決して最適な解決策とはならないと考える。
 地域の医療事情を最も知り尽くしているのは、地域の先生方であり、この取り組みの担い手は地域医師会をおいて、他にはない。データにない情報交換や、裏にある現実を具体的に話し合うことが会議の大きな役割でもある。
 さらに言えば、地域医療構想は今回だけで完了するものではなく、二年後に、進捗状況を踏まえながら再度協議すべきであり、県行政にもこのことを強く要請して行く。


地域包括ケアシステム
 地域包括ケアシステムを構築するには、住み慣れた地域で、高齢者が安穏に、安心して生活できるように、行政が中心となって、住民はもちろん、医療職、看護職、保健師等の専門職の方々と、連携・協力しながらケアの提供ができるネットワークを作らなければならない。言うなれば、「地域ぐるみ」でネットワークを実現させることが、包括、あるいは統合の意味するところではないだろうか。私は、小児科医でもあり、高齢者だけでなく、障害者や子育て中の親、未来を担う子どもたちも、誰もが安心して生活できる、そんな地域づくりができたら、と思っている。
 鹿屋市医師会では3つの地域包括支援センターを統合し、行政からの委託を受け、医師会主導で運営すると聞いている。支援センターが、様々な職種の中心的な存在となり、地域全体のコーデイネートが出来れば素晴らしいことだ。
 ケアシステムは、「住まいと住まい方」、「生活支援・福祉サービス」、「介護・リハビリテーション」、「医療・看護」、「保健・予防」を柱に、それぞれの分野で計画を立て、並行して出来るものから実施していければと思う。医師会はもちろん「かかりつけ医」、そしてそれぞれの医師会病院をはじめとした会員の医療機関の役割はこれからさらに大きなものになってくる。


各郡市医師会と医師会病院は我々の宝
 25年の10月から地域医療介護総合確保基金3億5千万円を活用し、在宅医療提供体制推進事業を実施した。県内5医師会から始めた事業は、15医師会へと広がり、在宅医療における多職種連携の推進、在宅医療に関わる人材の育成、地域住民への啓発、15医師会の地域における実践活動を柱に事業を展開している。そして、この事業を通じて各地域の医師会はもとより医師会病院の存在価値、その役割の重要性を改めて認識させられた。
 在宅医療提供体制推進事業では、地域の関係職種、自治体、住民が“地域のために”という同じ目標に向かい、顔と顔を付きあわせて議論し、課題解決に取り組んだ。この姿こそが一番の成果であり、地域包括ケアシステムに向けた礎になると確信している。
 地域の医療を守るためにも医師確保、看護師確保はやらなければならない大きな課題である。「はやぶさ基金」は小さな一歩かもしれないが、人材確保に向けて少しでも役に立てればと思う。
 また、平成27年4月から始めた鹿児島県医師会「認定かかりつけ医制度」は、これからの地域医療構想や地域包括ケアにおいて重要な役割を担うはずだ。さらに、日本医師会がこれから推進しようとしている「日医かかりつけ医機能研修制度」ともしっかりと連動させて行きたい。
 これまで述べた「地域医療構想の策定」や、「地域包括ケアのネットワークづくり」、「在宅医療とかかりつけ医の推進」のほか、「医師会病院と医療機関の連携強化」、「災害救急医療体制の強化」にも積極的に取り組んでいく。なかでも我々が持っている大事な財産である「医師会病院」の存在を再認識し、大いに活用することが我々医師会の存在意義を高めて行くと信じている。

地域創生
 少子高齢社会を迎え労働力が減少していく中で、医療・介護需要は増え、更に労働力が求められる。本県の平成24年就業構造基本調査結果を見ると「医療・福祉」が12万9千人、全体の16%と最も多い割合となっている。すでに地域における大きな雇用の場であることが分かる。地域医療の安定が地域経済に与える効果は大きい。さらに、「かかりつけ医」となる地域に根ざした医療機関の存在は、その地域の魅力に直結し、子育て世代の都市部への流出や過疎化を押し留めることにも繋がる。各地域でここに掲げた事業が推進されるならば、そのことが「地域創生」に必ず繋がり、明るい未来を迎えることができる。

終わりに
 これまで述べてきた事業を推進して行くためには、会員の理解と協力が不可欠である。県医師会に今最も求められているのは、対外的にも対内的にも会員が心を一つにして、活動して行くことではないだろうか。
 2016年度の診療報酬改定において、医療本体は0.49%プラスで合意された。自民党厚生労働部会で尾辻秀久氏は薬価財源の本体への充当を厚労省、財務省に強く求めた。この発言は尾辻氏が県医師会執行部との常日頃の意見交換から、我々の求めている意図をしっかりと汲み取ってのことである。我々の意志を社会の中で実現して行くためには、「政治の力」がいかに大きいかを改めて認識させられた。
 2016年は「振気」して、社会を変えるぐらいの意気込みで、丁寧さと慎重さを持って、業務に取り組んで行く。同時に、私自身は「社稷(しゃしょく)に仕える身」をむねに、医師会会員一人一人が希望を持ち続けながら歩くことのできる道を作って行きたい。
 「新しき 年の初めの 初春の 今日降る雪の いや重け吉事」(万葉集:大伴家持)。
 今年は雪が降り積もるように、良きことが重なることを期待したい。