年頭所感
 
   これからの医療の行方を考える 

鹿児島県医師会長 池田 琢哉 

            新しい年が明けた。皆様にとって、ご家族にとって良き年であるよう祈りたい。昨年、私は奈良の東大寺を訪れた。行こう行こうと思いながら、この歳になるまでなぜか果たせなかった大仏さま(盧舎那仏)との嬉しい出会いであった。
 盧舎那仏造立の詔を発した聖武天皇が、この奈良時代に早くも社会的弱者を保護する福祉制度を確立したことは驚くばかりである。この時代から約1300年後となる2018年は、少子高齢社会に向けて様々な政策や制度が動き始める。
 聖武天皇は、「世界に存在するあらゆるものは、お互いに密接に関わり合っていて、お互いを支え合って存在している」ことを、大仏造立によって具現化したいと願われた。
 盧舎那仏の智慧をお借りしながら地域医療の充実に更に邁進したい。

大いなる節目の年

 今年は医療・介護にとって、「大いなる節目の年」となる。それは、診療報酬・介護報酬の同時改定を始めとして、地域医療構想が具現化し、地域包括ケアシステムの構築、第7次医療計画、第7期介護保険事業計画、さらには医療費適正化計画と、これまで我々が体験したことのない社会の到来に向けて、待ったなしの対応が求められるからである。
 では、これからの医療はどうなっていくのか。その行方を、私なりに考察してみたい。高齢化の進展に伴い、慢性疾患の患者は増加し、疾病構造も変化してくる。病気と共存しながら、生活の質を維持、さらに向上を図って行く必要性も高まるなかで、医療と介護の連携、一体化への要請はこれまで以上に高まってくるだろう。

総合確保方針を作成

 このような時代の変化を受けて、国により策定されたのが、将来を見据えての「総合確保方針」であり、この方針を定めるに当たって、関係者の意見を反映させるための、学識経験者による「医療介護総合確保促進会議」が設置され、検討を重ねてきたところだ。
 促進会議で取りまとめられた方針を見ると、第一の柱は、医療計画と介護保険事業計画の一体的運営であり、これからは、医療と介護を同時に議論し、整合性が取れた形で、政策が決まって行くと思われる。
 二番目の柱は、医療と介護が密接に絡む在宅医療だ。切れ目のない、連続的で包括的なサービスが求められてくるが、ここで登場してくるのが、地域包括ケアシステムということになる。地域包括ケアを提供するとは、医療と介護を総合的に確保して、総力戦で社会を支えていく体制を作り上げるということにほかならない。
 そこで注目すべきは、これからの医療・介護の中核としての役割を担う地域包括支援センターの存在だ。市町村が設置主体の支援センターは、これまでは、介護だけを担っていたが、医療についても計画づくりを担うことになれば、その重要性はいっそう高まり、市町村と医師会の連携もより強まるはずだ。大きな改革の始まりと捉えることができる。
 一方で、小児のための子育て世代包括支援センターの設置や障がい児(者)を対象とした障害者総合支援法及び児童福祉法の一部改正など縦割り行政が地域で進もうとしている。地域包括ケアシステムの大本にある理念は、高齢者だけではなくハンディキャップを持つ方々(小児、障がい者、難病を抱える方など)を地域のすべての人々が連携し、協力し合うことで支えることだと思う。これらの施策をスムーズに進めていくためには、縦割りではなく、横の連携を密にしていくことが重要だ。
 具体的には、地域包括支援センター、子育て世代包括支援センター、保健センターと福祉事務所を同じ場所に設置、ワンストップで、これらを統括出来る人材を配置し、事業を展開していくべきだと考える。このシステムを動かしていくのは、人であり、人材の育成がその成否を決めるといっても過言ではない。医師会も人材の確保、育成には、これまでにも増して関わっていきたい。医師会のリーダーシップがますます求められる。
 三番目の柱は在宅医療、外来通院医療、入退院を繰り返しながら自宅で暮らしている人への対応だ。その対応の鍵は、対象となる人がどこにいようとも、その人の情報を、関わる人すべてが共有し、継続した医療・介護を提供出来ることである。そのためには、コーディネータ役となる人材の存在とケアマネージャー、看護師、PT、OT、ST等の多職種と家族など、切れ目のない連携が必要である。

2025年の先を展望

 このところ、団塊世代が75歳を上回る2025年問題が、注目されている。しかし、2025年は一つの節目ではあっても、通過点にすぎない、その先に続く社会を見据える必要がある。サービスの需要は2025年までは伸びていくが、その先は一旦落ち着き、2040年以降は、少子化に伴い若者が減少し、サービスの需要自体も縮小して、一気に下り坂になることが予想される。2025年で全てが終わりではない。さらにその先を展望した、戦略を作り上げなければならない。
 そんな中、今回の介護報酬改定で時代を反映し、将来を見据えているのが介護医療院の創設だろう。介護医療院は介護療養病床の医療機能を維持し、生活施設としての機能を備えた介護保険施設である。この長期療養施設は、地域包括ケアシステムのうち、「医療」、「介護」、「生活支援」に加えて「住まい」の機能も持つ。これからの超高齢社会への対応施設であり、平成30年4月から6年間の経過措置の間に転換が進むかどうかは、施設基準や介護報酬の水準次第ということになる。

国民のための医療・介護を

 医療・介護体制は全国一律ではないはずだ。地域によって、少子高齢化のスピードも大きく異なる。その変化に対応するには、それぞれのコミュニティーがそれぞれの医療と介護の提供体制を、言うなれば、地域の実情に応じた「独自」のシステムを構築することが求められる。各地域ごとに「知」を絞り出して作り上げていく、その結果が評価に繋がり、国を動かすことになる。しかし、社会保障費が膨らみ続ける中で、政府は「医療・介護の適正化」の名の下に、医療費抑制を図ろうとしている。
 医療・介護は「財源」だけで論じられるのではなく、真に「国民のための医療・介護の在り方」という観点から論じられるべきである。
 盧舎那仏が望み続けている「生きとし生けるものすべてが心安らかに暮らせる」素晴らしい未来が来ることを願うばかりである。