年 頭 所 感
 
少子・高齢化に人口減   
重大な転換期に立つ医療

   鹿児島県医師会長 池田哉  

          
 新しい年を迎えた。早いもので、新型コロナウイルス感染症の発症からもう2年が経とうとしている。だがコロナは未だ終息していない。このところ患者数は低い水準で推移しているものの、アフリカを中心に新たな変異株、オミクロン株が出現した。日本では水際対策を強化して国内への感染を食い止めようとしているが、世界では再び感染拡大の兆しが出始めた。いつになったら平穏な日々が訪れるのだろうか。

 油断することなく、万全の対策を 

 今年こそコロナを克服して鎮静化を図りたいと切に願う。コロナ禍のなか、医療関係者は過酷な医療現場でコロナ患者の治療に奮闘し、各医療機関はそれぞれの立場で、医療を支えていただいた。県の医師会長として、関係者のご苦労に改めて敬意を表し、感謝の気持ちを伝えたい。
 終わりの見えない闘いはこれからも続くが、決して油断することなく、感染防止策を始めとして、検査体制と宿泊療養施設の確保、入院病床の確保などに万全を期していこうと決意を新たにしている。
 これまでの長期に及ぶコロナ禍により、社会は分断され、経済は停滞したままだ。格差も広がりを見せ、県民同士のコミュニケーションも希薄になってきたと感じている。コロナの終息後に顕著になるであろう社会の変容、暮らしの変化を考えると、医療の役割のあり方や、患者と向き合う我々の姿勢も変えていかなければならない。
 このような状況下であればあるだけ、我々医師会の果たすべき役割は大きく、その責任は重い。
 今押し寄せて来ているこの大波を無事乗り越えていくためには、これからの2、3年間は大変重大な時期になってくる。先見性を持って、10年後、20年後に備えた医療体制を今から作り上げなければならず、それは医師会に課せられた「使命」だと言ってもよい。

 再編は慎重、そして着実に 

 さて、医療界にとって、コロナ対策が最優先の課題であることはいうまでもないが、一方で、地域医療構想の具現化、地域包括ケアネットワークの構築、働き方改革など、待ったなしの課題が山積している。少子高齢社会への対応に加えて、団塊の世代がピークとなる2025年問題が迫ってきており、どう対応していくのか、人口減少の中、どのような政策を打っていくのか、医療界は今、重大な転換期を迎えている。少子・高齢化に人口減が重なれば、医療・介護システムの再編問題が起こってくるのは間違いなく、それも急激にその深刻さを増してくると見ている。
 この転換期を迎えて、地域医療構想、第7次・第8次医療計画が目指すのは、機能分化と連携であり、連携は医療・介護システムの再編に繋がっていく。これから、鹿児島県でも将来を見据えた再編が本格的に始まっていくのだろうが、それは県民が不安を感じるものであってはならない。慎重に、そして着実に進めるべきだろう。そのような観点からすると、鹿児島県の医療を担う医師会が、県民の命と健康、さらに子孫の将来にまでも、その責任の一端を担うことになる。見方はいろいろあるのだろうが、「地域医療はまさに岐路に差し掛かっている」と私は考えている。

 三位一体で、医療行政推進 

 医師会が取り組むべき課題、解決しなければならない案件は多い。これをひとつずつ解決していくには、「県民の命と健康を守る」という明確な目標を掲げ、実現のために熱情を注ぎこんでいく以外にやり様はない。なぜならば、目標を掲げることで、相反する主張や利害問題が明確になる。その目標を大本として、それを調整することにより、実行可能な医療計画と、医療・介護政策が形成されていくからだ。
 幸い鹿児島県において特筆すべきは、行政、大学、医師会がしっかりと連携して、三位一体となって医療行政を推進していることだ。コロナへの対応だけでなく、これまでも様々な課題に対して、三者で連携して問題を解決している。三者で様々な課題に対応していくことが、県民の大きな利益に繋がると、私は信じて疑わない。

 県民にいただいた真心と感謝 

 ここで、先に述べたコロナ禍の中で、私の心を揺さぶり、奮起させた事象を紹介したい。
 それは、今回のコロナ禍で大変な中、県民の方々から、多くの感謝の気持ちを伝えられたことである。
 具体的には、酒造会社からのアルコールの提供、多くの企業からのマスクの提供、志布志では高校の看護学科、医療福祉学科の生徒が、医療従事者を支援する動画を作成してくれた。また、垂水では、料理人など15人が、近くの病院と介護老人施設におにぎりなどを差し入れてくれた。さらに、さまざまな団体からの浄財、加治木のボランティア団体からは、心のこもった千羽鶴、県庁では昼休み時間にみんなが起立して拍手をしてくださったこと、県内の花火大会で、医療界へのエールをいただいたこと、などなどである。患者さん一人一人からというのではなく、県民総意としての真心と感謝の念を、示していただいた。
 医療人として、医師会という一人の組織人として、こんなに誇りに思ったことはない。
 一方で、医師会としての責任の重さをますます強く感じた。
 県民に不安感を抱かせることが絶対あってはならないと思う。今こそ、これまで以上に、県民の信頼に応える絶好の機会と捉えるべきである。
 論語に「民、信無くんば立たず」の一文がある。政治で最も大切なのは、国民に信頼の心をもってもらうことだ、という戒めなのだが、医療界においても、「信無くんば」民は立たないであろう。