時言時論
   
かかりつけ医機能を担い、地域医療を守ろう
 
  鹿児島県医師会長 池田哉   
   
          
 近年、かかりつけ医機能に関心が高まっている。その理由はどこにあるのか、考えてみたい。
 かかりつけ医制度については、従来からいろいろな意見が出されていた。その一つは、具体的には、医療機関と患者との間で一対一の関係をあらかじめ決めておくという、いわゆる「登録制の仕組み」を導入すべきという意見である。特に今回のコロナ禍で、受診したくても受診できない患者がいたという問題が提起され、改めて「登録制」が主張されるようになった。
 そのような中、2022年6月の骨太の方針で、「かかりつけ医機能が発揮される制度整備を行う」とされた 1)。

 「かかりつけ医機能」
 
〇 かかりつけ医は、日常行う診療においては、患者の生活背景を把握し、適切な診療及び保健指導を行い、自己の専門性を超えて診療や指導を行えない場合には、地域の医師、医療機関等と協力解決策を提供する。
〇 かかりつけ医は、自己の診療時間外も患者にしてとって最善の医療が継続されるよう、地域の医師、医療機関等と必要な情報を共有し、お互いに協力して休日や夜間も患者に対応できる体制を構築する。
〇 かかりつけ医は、日常行う診療のほかに、地域住民との信頼関係を構築し、健康相談、健診・がん検診、母子保健、学校保健、産業保健、地域保健等の地域における医療を取り巻く社会的活動、行政活動に積極的に参加するとともに保健・介護・福祉関係者との連携を行う。また、地域の高齢者が少しでも長く地域で生活できるよう在宅医療を推進する。
〇 患者や家族に対して、医療に関する適切かつわかりやすい情報の提供を行う。
   (2013年8月8日:日本医師会・四病院団体協議会合同提言より) 
 
 
医療機能情報提供制度における「かかりつけ医機能」に関する現在の記載

  【医療法施行規則別表第一の規定に基づく病院、診療所又は助産所の管理者が都道府県知事に報告しなければならない事項として医療法施行規則別表第一に掲げる事項の内、厚生労働大臣の定めるもの(告示)】

 第十七条 規則別表第一第二の項第一号イ(13)(iii)及びロ(13)(ii)に規定する厚正労働大臣が定める身近な 地域における日常的な医療の提供や健康管理に関する相談等を行う医療機関の機能は、次のとおりとする。ただし、病院については、第五号に掲げるものを除く。
 一 日常的な医学管理及び重症化予防
 二 地域の医療機関等との連携
 三 在宅医療支援、介護等との連携
 四 適切かつ分かりやすい情報の提供
 五 地域包括診療加算の届出
 六 地域包括診療料の届出
 七 小児かかりつけ診療料の届出
 八 機能強化加算の届出

 これを受けて日本医師会は、2022年11月に提言を発表した 2)。
 その提言のポイントとして、三つが挙げられる。

【「かかりつけ医機能」で日医が提言】

 一つ目は、医療機能情報提供制度の見直しである。患者が受診したい医療機関を選択できる情報を整備し、対応するという制度だ。例えば、医師がかかりつけ医機能に関してどのような研修を受講したか、などの情報を公開する等である。医師側の提供できる医療機能情報を、できるだけ適切に分かりやすくして、患者側が医師を選びやすくするものだ。厚労省はかかりつけ医機能報告制度を、新たに創設する方向にあるが、具体的な項目、内容については、今後有識者や専門家等の意見を踏まえて、さらに詳細に発表される予定である。
 二つ目は、連携とネットワークによるかかりつけ医機能の発揮である。一人の医師が、あるいは一つの医療機関がすべての医療機能を担うことはできない。そこで地区ごとにできない分野をどのように分担すべきか、行政と医師会があらかじめ決めておく必要があり、面としてのさらなる連携・強化が求められる。各地区ごとに検討すべき事項は多々あるが、喫緊の課題は、過疎化の中の医療・介護体制、特に在宅医療や休日・夜間の救急体制である。
 今後出されてくる第8次医療計画も踏まえて、鹿児島県でも各地区で協議を重ねておく必要がある。さらに、介護など医療以外のサービスとの連携を強化する、ハブ機能をはじめ、公衆衛生行政と通常医療との接点も、常に維持しておかなければならない。これらのことは特に今回のコロナ禍の中で、痛感したことである。かかりつけ医機能の果たす役割は大きい。
 三つ目は、かかりつけ医機能の質の向上と評価である。
 現在、日本医師会において、かかりつけ医機能研修が実施されており、受講した医師がかかりつけ医を表明することで、評価が担保される。鹿児島県医師会は、以前から独自でかかりつけ医の研修と認定を行なってきた。今後は日本医師会のかかりつけ医機能研修に一本化する予定だが、鹿児島県はかかりつけ医の“先進県”といえる。
 一方で、財務省などには、「医師と患者との一対一の関係をあらかじめつくるべき」「登録制」「第三者機関による認定」「行政による認定」といった強硬な意見もある。あくまでも患者が自由に受診でき、複数の科でかかりつけ医を持てるようにすべきである。このことについては今後も行方を注視していかねばならない。

【診療能力高めることが重要】

 ところで、かかりつけ医機能の定義であるが、今国会で「身近な地域における日常的な医療の提供や、健康管理に関する相談等を行う医療機関の機能として、厚生労働大臣が定めるもの」として医療法に位置付けられた。このことで国民に対する責任が、より重くなったと言える。いずれにしても、医師の自発的な努力と学習によって、診療能力を高めていくことが最も必要だと考える。
 昨年の11月11日の全世代型社会保障構築会議で、上智大学総合人間科学部教授の香取照幸委員が、在宅・訪問診療、介護との連携について、より多くの医療機関が積極的に取り組むべきで、遠隔診療の利用も考慮すべきと意見書を提出している 3)。
 また、私も鹿児島県医師会長として以前から参加させていただいている「これからのかかりつけ医のあり方を考える会」(会長:横倉義武・日本医師会名誉会長)は、1月30日、かかりつけ医機能を発揮するための制度整備についての会見を開き、4つの条件整備を提言した。
 提言1では、かかりつけ医を持つことは国民の権利であるとした。そのための責任は誰が持つのかが提言2であり、国、都道府県、医師会はかかりつけ医機能の認定・公表・評価の仕組みを作るべきとした。
 提言3は、誰がかかりつけ医を紹介するか―で、住民に身近な都道府県・市町村と地区医師会をあげた。
 また、提言4では、国は患者情報を集約・管理する情報連携基盤を構築し、かかりつけ医・かかりつけ医療機関がそれを共有することを目指すとしている。そして最後に、国が目指しているプラットホームを、この情報連携基盤として活用すべきとまとめている。
 横倉会長は、「この提言をもとにしっかりと議論し、医師の方々には、日本医師会が開催する生涯教育を基盤に、かかりつけ医機能研修を進んで受けてほしい」と会見で述べている。

【かかりつけ医制度でよりよい医療提供】

 かかりつけ医機能制度は、子どもから大人まですべての国民、患者を対象としたものである。
 全ての国民が最も相応しい医療機関に適切なタイミングで受診できる体制整備を望みたい。そのことで、今よりも良い医療が提供できると確信している。
 貝原益軒は、養生訓で「医者は医書を読んでよく考えよ」「君子の医者になれ」と述べている。すなわち人を救うという志に専心し、人のために医業をするということである。私自身も、かかりつけ医として改めて肝に銘じておきたい。



1)令和4年8月19日第152回社会保障審議会医療保険部会
  https://www.mhlw.go.jp/content/12401000/000977520.pdf

2)令和4年11月2日日本医師会定例記者会見「地域における面としてのかかりつけ医機能」
  https://www.med.or.jp/dl-med/teireikaiken/20221102_11s.pdf     

3)令和4年11月11日第8回全世代型社会保障構築会議「2040年に向けた医療提供体制のあり方について」
  https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/zensedai_hosyo/dai8/siryou6.pdf

   (令和5年3月22日寄稿)