2020.1.11 第871回放送分 『アルコール依存症』2回目 ゲスト:田中大三ドクター


二見いすず: 今月のドクタートークは、「アルコール依存症」をテーマにお送りしています。
お話は、鹿児島県医師会の田中 大三(たなか だいぞう)ドクターです。
田中さん、よろしくお願いいたします。

田中大三Dr: よろしくお願いします。

二見いすず: 先週は、アルコール依存症は脳が障害されて起こる病気であり、決してご本人の意思や性格の問題ではない、というお話を伺いました。

田中大三Dr はい。
アルコール依存や薬物依存、ギャンブル依存というと、快楽を求めることをやめられない人たちという偏見がありますが、それはまったくの誤解です。
二見さんは何か困ったことが起きたり、悩みがある時はどうされますか?

二見いすず: たぶん、家族や親しい友人に相談すると思います。

田中大三Dr そうですよね。
それができるのは、根底に人に対する信頼感があるからです。
しかし、依存症になる方は、人への信頼感が低い傾向があると言われます。
人が信じられないため、何かつらいことや困ったことがあっても、自分ひとりで何とかしなければならないと思い込んでいるのです。

二見い

ず:
どんな時にも人を信じられない、人に頼れないというのはとても孤独でつらいのではないかと思いますね。

田中大三Dr それをひとことで言えば、「生きづらさ」ということでしょうね。
私は多くの依存症の患者さんと接していますが、アルコールや薬物依存を何度も繰り返す人は、何らかの生きづらさを抱えているように感じます。
アルコールや薬物は脳内に大量のドーパミンを放出させ、気持ちが高揚するので、つらく不快な感情を忘れさせてくれます。
ですから、よくないとわかっていても、やめられなくなってしまうのです。

二見いすず: アルコール依存症になる方は、楽しさや快楽を求めてお酒を飲んでいるわけではなく、お酒で「生きづらさ」を紛らわせているのですね。

田中大三Dr 言い換えれば、それがその人なりの、生きづらさを癒す自己治療と考えられます。
依存症の人が持つ「生きづらさ」は、とても大きな苦しみですから。

二見いすず: なるほど。
そもそも、そうした「生きづらさ」というのはどうして生まれるのでしょうか?

田中大三Dr 私たちは生まれてから、今まで、親をはじめとする養育者や、周囲の人との間で、安心感や人への信頼感を育みながら成長してきています。
けれども、その中において、傷つけられたりすると、自分自身の居場所がなくなり、人や自分自身に対する信頼感がうまく育たず、誰も信じられず、どこにも安心できる居場所がないために常に人生が漠然とした不安や恐怖に支配されてしまうのです。


二見いすず: 依存症になる方の根底にそれほどの苦しみがあるとは、大変驚きました。
でも、そういう方に対して今の社会はとても厳しく、たくさんの誤解があるような気がします。

田中大三Dr おっしゃる通りですね。
依存症の回復には周囲の人や社会の理解や支えが絶対に欠かせないので、ぜひ、正しくご理解いただきたいと思います。

二見いすず: 大変よくわかりました。
次週はアルコール依存症の治療や回復について教えていただきます。
お話は田中大三(たなか だいぞう)ドクターでした。
ありがとうございました。

田中大三Dr ありがとうございました。